日米貿易協定って
WTOの地域貿易協定(RTA)に該当するの?

【ご質問】
日米貿易協定は、WTO協定第24条の地域貿易協定(RTA)に該当するのでしょうか

【お答え】
該当するともしないとも言えそうです。しかし、現時点(2021年4月7日現在)では、日米貿易協定WTOに対してRTAとして通報(WTO事務局が受理)したとの報告は見当あたりません(WTO website)。このことから推測すると本協定が現時点では、RTA(Regional Trade Agreement)に該当するとは明言できないとの見方が有力であるように思います。
その理由としては、次のようなことが考えられます。

1.WTO協定で定める地域貿易協定とは

WTO協定上のRTAは、「1994年の関税及び貿易に関する一般協定(以下、単に「GATT」という)第24条に規定されています。その概要は次の通りです。

WTO加盟国間では、最恵国待遇が GATTの基本的原則とされ、特定国間だけの関税の引下げは認めないとされています(GATT第1条第1項、同第2条第1項)。ただし、同時に、この例外として、GATT第24 条(適用地域‐国境貿易‐関税同盟及び自由貿易地域)では、域内での障壁を実質的にすべての貿易で撤廃すること、域外に対して障壁を高めないこと等、一定の要件を満たす地域貿易協定(RTA)の締結を認めています。

同条では、RTA を①関税同盟(Custom Union)、②自由貿易地域(Free Trade Area)、 及び③これら両者に至る中間協定の3類型に分類しています。

日本が締結しているEPAFTA協定は、同条でいうRTAのうちの関税同盟(構成国の間で域外への関税率・通商規則を同一にしなければならない)ではなく、②の自由貿易協定あるいは③その中間協定に当たるとされており、日米貿易協定以外の、これまで締結されている経済連携協定は、WTOにも通報されています(WTOのウェブサイトを見る限り、4月7日現在、直近ではUK-ガーナ協定が2021年3月4日通報とされていますが、日米貿易協定が通報されていることについては確認できていません)。

2.日米貿易協定がWTOのRTAに該当するか否かの判断上の問題点等

この RTAに関しては、その通報ごとに当該 RTA が同条の要件を満たすか否かにつき、加盟国による審査が行われることとなっていますが、これまでほとんどの場合、当該 RTA が GATT 整合的とする当事国の主張と、整合的でない点があるとするその他の国の主張が両論併記という結果になってきました。その理由は、第24 条第8項(b)で定める自由貿易協定の要件とされる、「関税その他の制限的通商規則(第11条、第12条、第13条、第14条、第15条及び第20条の規定に基づいて認められるもので必要とされるものを除く)が、その構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上全ての貿易について廃止されている2以上の関税地域の集団をいう」の解釈をめぐる問題があります。すなわち、「実質上すべての貿易」、及びその例外とされる「その他の制限的通商規則」がWTO加盟国によりさまざまに解釈されているためです。

また、同第5項(b)では、自由貿易地域の設定のための中間協定に関しては、「その中間協定の締結時に、当該地域に含まれない締約国又は当該協定の当事国でない締約国の貿易に適用されるものは、自由貿易地域の設定又は中間協定の締結前にそれらの構成地域に存在していた該当の関税の通商規則よりそれぞれ高度なものであるか又は制限的なものであってはならない」と定めているが、この、「高度なものであるか又は制限的なもの」等の規定に関しても、解釈が統一されているわけではありません。

なお、同第5項(c)における、「(a)及び(b)に定める中間協定は、妥当な期間内に関税同盟を組織し、又は自由貿易地域を設定するための計画及び日程を含むものでなければならない」との規定に関しては、ウルグアイラウンドにおいて定められた「GATT第24 条の解釈に関する了解」第3項において「…「妥当な期間」は、例外的な場合を除くほか、10年を超えるべきではない」と定められています。そして、更に、「中間協定の締約国である加盟国が10年では十分ではないと認める場合には、当該加盟国は、一層長い期間を必要とすることについて物品の貿易に関する理事会に十分な説明を行う」と定められています。

しかしながら、この規定「10年」に関しても、「should exceed10 years only in exceptional cases.」と規定されており、shallではないので、どのくらい拘束されるか疑問視する考えもあります。また、WTOに通報した場合は、このことについても理事会に説明する義務は生じます。
更に、同了解においては、上記のほか、①関税の全体的水準は貿易量を考慮した貿易加重平均を用いること、②関税同盟により譲許税率の引上げが行われる場合は関係国と同 第28 条に基づく関税交渉を行うこと、③その場合第3国が関税同盟の形成で利益を受けることがあってもその代償(逆代償)を提供する義務はないこと等も合意されています。ただし、依然として、「実質上すべての貿易」等の要件については合意が得られていません。

3.日米貿易協定はRTAといえるか

こうした状況の中で、日米貿易協定WTOのRTAに整合的であるかどうかは、第24条第5項(b)で定める自由貿易地域設定のための中間協定といえるかどうかにかかっているといえましょう。

日米貿易協定は、現状では、単に「将来検討する」として、その内容が10年以内に完結するということも、また具体的な交渉スケジュールも定まっていないものもあります。この場合、関税が無税とされていない物品及びまだ規定されていない積み残しの物品が、「実質上すべての貿易」における例外品(その他の制限的通商規則で例外扱いが認められている物品)に該当するかどうかについても、WTO協定の解釈上明確にされておらず、もしこれらに該当するという解釈の立場をとれば、これらについては例外扱いとなり、協定の要件を満たすこととなり、第24条の中間協定に該当するということも考えられるでしょう。

しかしながら、実際には、例えば、積み残しとなっている自動車関係がこれらの例外に当たるとは考え難く、やはり、日米貿易協定は、自由貿易地域協定がその中間協定としての要件も満たしておらず、24条5(c)に規定する「妥当な期間」が10年では十分ではなく一層長い期間を必要とすることについて物品の貿易に関する理事会に説明をしていない場合は、RTAの中間協定に該当するには至っていないと解される可能性もあるのではないでしょうか。

参考文献:
・ 外務省経済局国際機関第一課編「1974年の関税及び貿易に関する一般協定第24条の解釈に関する了解」『解説WTO協定』pp.77-82(日本国際問題研究所)1996年5月
・ 外務省経済局監修「1947年10月30日付けの「関税及び貿易に関する一般協定」」『世界貿易機関を設立するマラケシュ協定WTO』pp.908-1035(日本国際問題研究所)1995年7月
https://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g70416a2-1j.pdf
・ 伊藤 正人 国際交渉対応推進委員会の活動 地域貿易協定(RTA)とWTO 農林水産政策研究所 レビュー No.1270農林水産政策研究所レビューNo.12
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/review/attach/pdf/040630_pr12_12.pdf

 【文責:宮崎千秋】