機械類等の部品及び附属品のHS分類は
なぜ難しいと感じるの?
はじめに
機械類や自動車など(以下「機械類等」といいます。)の部分品及び附属品のHS分類については、分かりにくいという声が聞かれます。確かに、一部の物品について、HS分類は判断が難しいものもあります。しかしそれは、機械類に限らず、HS全体を通じてどの類の物品についてもあり得ることです。
では、何故、機械類等の部分品及び附属品のHS分類が特に難しいと感じられるのでしょうか。
今回は、その理由を紐解き、どのように考えれば馴染みやすいものになるか、また実際のHS分類に関し、どのように実践していけばよいのかを考えてみたいと思います。
1.部分品及び附属品のHS分類が分りにくいと感じるのはなぜか
① HS品目表上、部分品及び附属品の定義を定めることは難しい
機械類等の部分品及び附属品の分類が分りにくいと感じる理由としては、いくつか挙げられますが、HS分類上の定義が定められていない、ということもあるかもしれません。部分品に関しては、汎用性の部分品の定義が第15部注2に置かれているほかは、定義のような規定はありません。これは、HSの構造上というか、HSの性格上の問題です。HS分類では特定の物品は、たとえ部分品一つであっても、必ずいずれか一つの項に分類しなければならず、なるべくそのようになるように品目表自体作り上げる必要があるからです。つまり、特定の機械の部分品をそれぞれに定義し、全てをその機械の属する項に分類するという方法はとれないのです。
② 一般に、機械に用いられている部分品は多種多様で、かつ、部分品の多層構造となっていること、さらに、部分品は、最後の素材まで部分品であるということ
①と同じことではありますが、例えば、冷蔵庫(第84.18項)には冷蔵庫の部分品を含むように規定しているとしましょう。また、エアコン(第84.15項)も同じように規定しているとします。一見単純で分かりやすいです。では、冷蔵庫に使用される部分品である気体圧縮機(第84.14項)が輸入されたとします。この気体圧縮機は、上記の仮定の下では、冷蔵庫の部分品としても、エアコンの部分品としても用いられるものなので、これらいずれの項にも該当することとなります。また、気体圧縮機はこれらにとどまらず様々な機械、自動車等に用いられます。通則3(a)とか3(c)とかを持ち出せるレベルではありません。
更に、気体圧縮機には、電動機(第85.01項)が用いられています。言い換えれば、電動機も上記の例でいえば、冷蔵庫の部分品ですし、エアコンの部分品でもあります。他の気体圧縮機が用いられた機械全ての部分品でもあります。このように、機械類に関しては特に、その部分品は多層構造となっていること、つまり、特定の機械の部分品もまた他の機械類から構成されているといった具合です。そのため、仮に定義を定めたとしても、このままでは必ずしも特定の機械の部分品として一つの項に分類が決まるとは限らないということです。
③ これらの事情に合わせて、それぞれの物品を最終的には一つの項に分類するように、HSの規定を定める必要があること
これは、説明は不要と思います。上記のような状況で、いわゆる特定の機械の部分品を一つの項に属することができるように項の規定、部又は類の注の規定を定める必要があります。そのため、これらの規定は細かく一見複雑そうに見えます。
これらが、機械類の部分品に関するHS分類が特に難しいと思われる理由と考えられます。しかしながら、これらの規定を難しく考えずに、順序だって、より単純に考えることが重要です。
難しい解説は不要、「HS分類は難しくない!」です。
2.部分品及び附属品についてどのように考えればよいか
一般的には、「部分品」とは、「部品」と同義語です。(広辞苑では、部品⇒部分品としています。)自動車の部分品とは自動車部品です。つまり 完成した自動車を各構成部品に分解すれば、そのパーツは全て自動車の部分品です。自動車のエンジンも、エンジンの中のクランクシャフトも、ピストンやこれらを留めているピンやネジの類に至るまで、一般的には部分品です。つまり、部分品は当該機械の部品ですので、一つでも欠けていれば、商品として、完全に完成した自動車とは言えないでしょう。だからと言って、これらすべての部品が「自動車の部分品及び附属品」に分類することにはならないことは、お分かりのことと思います。
では附属品はどうでしょうか。Accessoryと表現されている通り、附属品がついていなければ完成した商品(機械)とは言えない、ということではなさそうです。自動車を注文すると、工場から出荷される完成車に、ディーラーが販売プロモーション用のサービスとしていろいろなものを附属品として備えて、納品してくれます。例えば、足元のマット、座席用のカバー、その自動車の形に合わせた専用の車体カバー、タイヤ交換工具一式、ドアーバイザー等々をオプション、サービス品として、取り付けたり、また車と共に引き渡したりしてくれます。こうしたものは、部品とは異なり、必ずしも当該機械(自動車)になければならないものではありません。これらがなくても完全な完成車です(ここでは通則2(a)の規定は議論しないので、念のため)。このように、附属品は、特定の機械、自動車等に対して、あれば便利というもので、補完的に用いられるものといえます。逆にいえば、それのみでは役に立たない代物です。
ごく一般的な言い方ですが、ある特定の機械類で、必要な部品を使って結合、組立てを行い、完成したところまでを考えると、この完成品に組み込まれているものが全て部分品。更に、この完成品に、あれば便利という物品を取り付けたり、附属させたり、当該機械に関連して、ともに用いると便利という物品が附属品と考えることができます。また別の見方をすれば、部品は完成品とするまでに必要な各パーツ、附属品は完成後付けられる、あるいは共に使用されるものともいえます。
HSの分類実務の議論は別にして、このように、一般的に、部品はあくまでも完成品を観念的に分解すればいいのですが、完成品に加えられる附属品はどこまで広げて考えることが許されるかという問題があります。後でも触れますが、「部分品及び附属品」と規定されている項の分類段階では両者を区別する必要はありませんが、部分品と附属品は明確に区別して考えなければなりません。「機械の部分品」には、附属品は含まれません。
3.ではHS分類上どのように考えればよいか
上記は、あくまで「部分品」とは何か、「附属品」とは何かということについて、観念的に整理したものです。この概念を念頭においておけば、HS分類上の判断がブレません。この項では、「部分品」、「附属品」を上記のように観念したうえで、実際の産品についてHS分類していく上での手順を、私なりに説明していきたいと思います。(話を簡単にするため、15部注2に定める汎用性の部分品については、物品及びその所属が決まっているので、基本的に触れないこととします。)
第16部の機械(第84類各項の機械類、85類の各項の電気機器)をこのコラムでは、勝手に機械類としておきます。また第17部の車両(自動車)も含めて、必要に応じ機械類等と略記します。
部分品、附属品に関して、第16部及び第17部の規定ぶりを見てみると、例えば次のようなものがみられます。(なお、16部注5の規定により「注1から4までにおいて「機械」とは、第84類又は第85類の各項の機械類及び電気機器をいう。」と定められています。)
①「機械の部分品」(第16部注2の柱書)
②「第84.07項又は第84.08項のエンジンに専ら又は主として使用する部分品」(第84.09項)
③「印刷機・・・並びに部分品及び附属品」(第84.43項)
④「第84.44項からこの項までの機械に専ら又は主として使用する部分品及び附属品」(第84.48項)
⑤「部分品及び附属品(第87.01項から第87.05項までの自動車のものに限る。)」(第87.08項)
上記のほかにも規定ぶりが違うものもあるかもしれませんが、これらの内容からHSの建付けを考えてみましょう。
(1) 附属品について
順不同ではありますが、「附属品」という語は単独では規定されておらず、上記③,④のように、「部分品及び附属品」と規定されています。例えば、第84.09項の「部分品及び附属品(第87.01項から第87.05項までの自動車のものに限る。)」において、その細分は、2022年版HSでは以下のとおりとなっています。
87.08 部分品及び附属品(第87.01項から第87.05項までの自動車用のものに限る。)
8708.10-バンパー及びその部分品
-車体(運転室を含む。)のその他の部分品及び附属品
8708.21--シートベルト
8708.22--この類の号注1のフロントガラス(風防)、後部の窓及びその他の窓
8708.29--その他のもの
8708.30-ブレーキ及びサーボブレーキ並びにこれらの部分品
8708.40-ギヤボックス及びその部分品
8708.50-駆動軸(差動装置を有するものに限るものとし、伝動装置のその他の構成部品を有するか有しないかを問わない。)及び非駆動軸並びにこれらの部分品
8708.70-車輪並びにその部分品及び附属品
8708.80-懸架装置及びそれらの部分品(ショックアブソーバーを含む。)
-その他の部分品及び附属品
8708.91--ラジエーター及びその部分品
8708.92--消音装置(マフラー)及び排気管並びにこれらの部分品
(中 略)
8708.95--安全エアバッグ(インフレーターシステムを有するものに限る。)及びその部分品
8708.99--その他のもの
ご覧の通り、「部分品及び附属品」と規定されている号と「部分品」のみ規定している号があります。HS品目表は、これらの各号の規定を「○○の部分品」とするか「○○の部分品及び附属品」とするかについては、よく考えた上で細分が設定されているのは明らかです。
例えば、上記、第87.08項(自動車の部分品及び附属品)の細分ですが、第8708.40号は「ギヤボックス及び部分品」となっています。確かに、ギヤボックスには附属品は考えられません。他方、第8708.70号は「車輪並びにその部分品及び附属品」と規定されています。車輪の部品としてはリムやディスク、留め具などがありますが、ホイールキャップは車輪の部品ではなく附属品といえます。もし、この号に「附属品」が規定されていない場合、ホイールキャップは、第8708.99号に分類されることとなるでしょう。(ホイールキャップは最近の高級車にはあまり見られませんが、トラック等大型車などには使われているケースはあると思います。)
第84類の機械の各項で、「○○の部分品」はほとんどの項の機械にありますが、「○○の部分品及び附属品」と規定された項は少ないです。こうした機械には、通常附属品は使われないというものと考えられます。(仮に、もし専用の附属品があったとしても、項の規定から当該項には含まれません。)
若干重複しますが、「○○の部分品及び附属品」と規定された項については、附属品の範囲がどこまでか考える必要があります。最初の一般的な概念で記述した、乗用自動車用の車体カバーについて考えてみましょう。それぞれ特定の型式の自動車専用のカバーであって、愛車を塵埃、雨による汚れから守るために運転しないとき覆っておくものです。それ以外に使い途はありません。ごく薄いプラスチックでコーティングされているようにも感じられますが、肉眼ではそれは確認できないポリエステル繊維製の織物で、バックミラーの位置、車体のサイズ・形に合わせて、その自動車用に作られたものです。これは明らかに当該自動車の附属品といえましょう。他方、トラックの荷台の貨物の保護、脱落防止用に覆うシート(例えばビニールを塗布したポリエステル繊維製の布で、これをロープで留めるための穴があけられたもの)があります。このシートは、乗用自動車用の車体カバーとは異なり、荷物の積卸しの時に、地面に敷いたり、また取卸した荷物を一時保管するとき、カバーとして使うこともあります。この場合のシートは、トラックの附属品というには、前者と比べて、自動車との関連性が弱く、また、トラックの附属品として使用する以外に用途がないというものでもありません。従って前者の乗用自動車用の車体カバーは第87.08項の自動車の部分品及び附属品に該当しますが、後者の貨物車の荷台用のシートは同項の部分品及び附属品には該当しないと考えられます。
なお、実際のHS分類はここでは終わりません。例えば前者の乗用自動車用の車体カバーが第87.08項に該当したとして、ほかに該当する項がないか確認する必要があります。第11部の紡織用繊維製品に該当するか確認し、該当する場合は、別段の規定(除外規定等)がなければ、通則3(a)で判断することとなります。場合によっては結果として、第87.08項には分類されず、繊維製品に分類されることになる可能性もあります。(実際には、関係する項の規定ぶり及びその項に含まれる物品の範囲等、総合的に勘案して判断されます。材質での規定が優先とか製品に関する規定が優先とか、一概に決めることは避けるべきです。)
(2) 部分品について
ここでは第16部の物品を例として考えてみます。
部分品は、附属品とは異なり、特定の機械の構成部品であるので、冒頭述べた通り、モノによっては機械そのものであり、それが他の機械の部分品であることもしばしばです。このような事情から、第17部の機械の部分品に関する同部注2では、「機械の部分品(第84.84項又は第85.44項から第85.47項までの物品の部分品を除く。)は、 次の定めるところによってその所属を決定する。」として、次のように定めています。
なお、同部注2の柱書のかっこ書きにある機械の部分品(例えば第84.84項(ガスケット))の場合、その部分品となるとその物品の性格上、構成材料を指すこととなり、第17部には分類されない物品が該当することとなるので、こうした機械についての部分品は除外しています。また、当然ですが、部注1によりこの部には含まれないとされている物品もこの注2の規定の対象外です。
「(a)当該部分品は、第84類又は第85類のいずれかの項(第84.09項、第84.31項、第84.48項、第84.66項、第84.73項、第84.87項、第85.03項、第85.22項、第85.29項、第85.38項及び第85.48 項を除く。)に該当する場合には、当該いずれかの項に属する。」と定めています。
すなわち、原則として、第84類又は第85類のうち、上記かっこ書きの項を除き、いずれかの項に該当する物品は、当該項に属すると規定しています。これらの項に該当する機械は、何れの機械の部分品として使われようとも、当該特掲された項に分類する、とする原則を示しています。冒頭1.で述べた例でいえば、電動機(第85.01項)は、冷蔵庫の部分品であろうとも、また気体圧縮機の部分品であろうと、電動機(第85.01項)に属すると明記したものです。従って、これらは、「専ら又は主として使用する」という語は当てはまりません。
他方、上記かっこ書きの項を除いているのは、これらは、いずれも「・・・の部分品」と規定されており、(a)の規定と矛盾が生じる可能性があるからです。例えば、第84.09項は「第84.07項又は第84.08項のエンジンに専ら又は主として使用する部分品」と規定されています。この規定に対して部注2(a)の規定を適用すると、エンジン専用の部分品である、第84.83項のクランクシャフトも第84.09項に分類されることとなり、(a)の規定の自己矛盾が起こります。従って(a)の規定から外し、(b)の規定を適用することとしています。
そして、次に
「(b)(a)のものを除くほか、特定の機械又は同一の項の複数の機械(第84.79項又は第85.43項の機械を含む。)に専ら又は主として使用する部分品は、これらの機械の項又は第84.09項、第84.31項、第84.48項、第84.66項、第84.73項、第85.03項、第85.22項、第85.29項 若しくは第85.38項のうち該当する項に属する。ただし、第85.17項の物品及び第85.25項から第85.28項までのいずれかの項の物品に共通して主として使用する部分品は、第85.17項に属し、第85.24項の物品に専ら又は主として使用する部分品は、第85.29項に属する。」としています。
すなわち、部分品が上記(a)の特定の項に特掲されている機械(物品)に該当するものは除き、それ以外の部分品についての規定です。ここでは、当該部分品が、特定の機械(又は同一の項の機械)に、専ら又は主として使用する部分品であるものは、当該機械が属する項に分類するとしています。「又は」以降の各項は、(a)で除外された()書きの項(例えば、第84.09項)の機械に専ら又は主として使用される部分品ですので、この(b)で救っています。また但し書きは、これらから外れた、特定の項の機械に共通して主として使用されるもの、特定の機械に専ら又は主として使用される部分品について、こうした項の規定が置かれていないため、この注(b)でまとめて規定したものです。
そして最後に(c)です。
これは、上記いずれにも該当しない部分品についての規定です。
「(c)その他の部分品は、第84.09項、第84.31項、第84.48項、第84.66項、第84.73項、第85.03項、第85.22項、第85.29項又は第85.38項のうち該当する項に属する。この場合において、該当する項がない場合には、第84.87項又は第85.48項に属する。」と定めています。最後に、部分品自体が項の規定として特掲されておらず、また特定の機械類に専ら又は主として使用されるものと判断できないものは、部分品としてまとめた、これらのいずれかの項に属すると定めたものです。
このほかの、部分品に関する細かい部注の規定は省略しますが、このように部分品については、最初に述べた通り、特定機械の部分品が必ずその機械のみの専用の部分品とは限らないこと、また特掲された機械(それ自体が他の機械の部分品となる場合もある)との関係などの事情から、いわゆる部分品と呼ばれるものを、何れかの特定の項に分類するための工夫が必要で、それが注の規定の大きな目的の一つです。
4. 部分品のHS 分類の手順について
実際の特定の機械類の部分品についてのHS分類の手順は次の通りです。
先ず第一に、モノを正確に把握することです。何の部品か、どのように、どの個所に用いられているか、当該機械の専用の部分品か、あるいは少なくとも、主としてその機械に使われている部分品であるかを確認、確定することです。
その次に項の規定と、関係する注の規定に従って分類することです。ここからが、当該物品に対して、HSの項の規定の解釈と適用、すなわち分類作業となります。
他の物品にも言えることですが、特に機械類の部分品の場合、HS分類については、次のように考えるとよいでしょう。以下、自動車のピストン式火花点火ガソリンエンジンを例に考えてみます。(次回詳細に解説する予定です。)
① 当該部分品(物品)が該当するとみられる項はあるか探します。あればその項の規定及びその項に関係する部又は類の注の規定があるか。あればその内容を確認します。(ここは事実関係の把握だけです。)
② 部及び類の注の規定で、当該部又は類に含まれる物品の規定に該当するものであるかどうか判断します。また、当該部又は類に含まれない物品に当たるか否かを確認します。(少し解説が長いですが、ほとんどの場合、これで所属が決まります。)
例えば17部の注1において「この部には、第95.03項又は第95.09項の物品及び第9506項のボブスレー、トボガンその他これらに類する物品を含まない。」とあります。(「これらに類する物品」が何かについては判断が入りますが、今回は議論しません。)。
また、同部注2において、「部分品」及び「部分品及び附属品」には、次の物品(この部の物品に使用するものであるかないかを問わない。)を含まない」と規定しています。この意味は、この部の各類に規定されているいずれの項にも次の物品は含まれない、という意味です。いわゆる「除外規定」と呼ばれる、注の規定です。(類にも必要に応じ同じようにそうした規定が置かれています。)
更に、第17部の注の3には、「第86類から第88類までにおいて部分品及び附属品は、当該各類の物品に専ら又は主として使用するものに限るものとし、これらの類の2以上の項に属するとみられる部分品及び附属品は、主たる用途に基づきその所属を決定する。」とあります。ここだけを読むと自動車専用の火花点火式ガソリンエンジンであれば第87.08項に属するとみられそうです。
そこで、もう一度注2の除外規定をみてみます。うち(e)として、「第84.01項から第84.79項までの機器及びその部分品(この部の物品のラジエーターを除く。)、第84.81項又は第84.82項の物品並びに第84.83項の物品(原動機の不可分の一部を構成するものに限る。)」 とあります。ここで第84類を見に行くと、第84.07項にピストン式火花点火内燃機関(エンジン)があることが分かりました。すなわち、第84.07項に属するピストン式火花点火内燃機関(エンジン)は、17部すなわち自動車の部分品であっても、当該項に分類され第17部(第87類)の第87.08項の自動車の部分品には分類されないこととなります。
ここまで見てきた通り、自動車用のガソリンエンジンの分類に関しては、項の規定(第87.08項及び第84.07項)及びこれらの項が属する部の注の規定(第17部注2、第16部注2(a))に従って、分類が決まりました。つまり、通則1の規定に従って所属が決まっただけです。自動車用のガソリンエンジンが、第87.08項に属するか、第84.07項に属するか。右か左かは、関係する注の規定で、いずれに該当するか道順が示されています。これを称して、分類のための交通整理がされているといいます。
余談ですが、逆のアプローチをしてみます。
部の順から、またエンジンは機関であり、機械類であると認識している場合は、まず16部の機械類をチェックするかもしれません。例えば、第84.07項にピストン式火花点火内燃機関が規定されていることに気付き、これが正しいか検証することとしましょう。
この場合であっても、関係する第16部の注1に、「この類には次の物品を含まない。」として「(l) 第17部の物品」とあります。従って、今分類しようとしている物品(自動車用ガソリンエンジン)が第17部のいずれかの項に該当する場合は、第16部の機械類には分類されないということを意味します。この例で、自動車専用のガソリンエンジンは、第17部注3の規定により、自動車に専ら又は主として用いられる部分品なので、第87.08項に含まれそうです。もしそうであれば、第87類、すなわち第17部の物品ということなので、第16部のいずれの項にも分類されないこととなります。しかしこれで終わりではありません。そこで、関係する第17部の注の規定も見ていきます。
第17部注2の除外規定に、「(e)第84.01項から第84.79項までの機器及びその部分品(この部の物品のラジエーターを除く。)、第84.81項又は第84.82項の物品並びに第84.83項の物品(原動機の不可分の一部を構成するものに限る。)」 とあります。すなわち、第84.07項のエンジンは、第17部すなわち自動車の部分品及び附属品には分類できないということとなります。つまり、自動車用の火花点火ガソリンエンジンは、第16部(第84類の第84.07項又は第84.08項)に含まれれば、第17部には分類されないこととなります。先に述べた通り、16部注2(a)の規定で、第84.07項の物品は当該項に属することとなっているので、結局は、この自動車専用のエンジンは、第17部自動車の部分品ではなく、第84.07項の機械(火花点火内燃機関)に分類されることとなります。
検討の順は違いますが、いずれにしても通則1に従った結果、分類が決まるということに尽きます。(注の除外規定をもって、いずれが「優先規定」ということもできるかもしれませんが、場合によっては混乱を招きかねない場合もあるので、単に、こうした手順で分類のための交通整理がされていると考えればよいと思います。)
③ 本件例示とは別に、次に、こうした注の規定による交通整理ができていない場合(通則1に従っても分類が決まらない場合)どうするか。(こうした注の規定だけでは最終的に分類を決定できない場合もあります。)
いうなれば、通則1で、2つ以上の項に該当するものであって、いずれの項に分類するかは、通則3(a)にてこれらの項の規定を比較し、より特殊な限定をして記述している項が、一般的な記述をして規定している項に優先するということになります。(「優先」という語は、協定上このような場合に用いられています。)
5.結び
部分品及び附属品については、以上のように言葉の意味を整理したうえ、分類対象の物品を見極め、実際のHS分類にあたっては、項の規定、関係する部又は類の注の規定を丹念に読み解いていけば、難しいことではありません。
尤も、それでも複数の項に該当すると考えられるケースも少なくありません。その場合は、上記の通り、通則3(a)の規定により判断されます。HS品目表上、第87.08項以外の多くの他の類の項の下に、自動車用の部分品が号細分として特掲されているのにお気づきと思います。これは項のレベルでのそうした分類決定の結果にも関係しています。(具体的な事例を掲載したいのですが、紙面の関係で、今回はこの程度にしておき、稿を改めたいと思います。)
以下改めて、ポイントをまとめるため、若干事例を交えて改めて整理してみたいと思います。
第84類の機械類には、「部分品及び附属品」と規定した項は多くありません。ほとんどが「部分品」です。「○○の部分品」と規定されている項に、単独の産品がその附属品として当該項に分類されることはありません。他方、第85類の物品には、「部分品及び附属品」という規定も少なからずあります。また上述の通り第87類の車両関係も「部分品及び附属品」という規定が置かれています。これらの項のレベルでの分類には、「専ら又は主として使用されるもの」かどうかの判断で十分ですが、号の分類になると部分品か附属品かの判断が必要となります。(単なる参考ですが、第84類と第85類の表題を比較しても、第84類の表題には「部分品」、第85類の表題には「部分品及び附属品」のフレーズが見られます。)
また、切り口が違いますが、すでに述べたように、部分品にしろ、附属品にしろ、専ら又は主として使用されるものであるといっても、必ず当該該当する項に分類されるとは限りません。例えば、自動車の床用のマット(化繊のパイル織物)は自動車専用の附属品ですが、紡織用繊維製品の床用敷物として例えば第67.02項に分類されます(通則3(a))。もう一つ。乗用自動車専用の速度計・走行距離計は自動車の部分品ですが、第90.29項に該当するため、第17部の除外規定により、自動車の部分品としてではなく第90.29項に分類されます(通則1)。
では、自動車用のウインドスクリーンワイパーはどうでしょうか。全て揃って組み立てられていれば、直感的には、自動車用部分品として第87.08項が考えられますが、そのパーツであるモーター部分のみ単独で提示された場合は第85.01項の電動機であるので、同様に第17部除外規定の「(f)電気機器(第85類参照)」により、自動車用の部分品には分類されません。では、このモーターが自動車のフロントに取り付けられるように支持枠、取付け具が備え付けられており、回転運動を往復運動に変換するワイパーリンクが取り付けられた状態のもので、明らかに自動車専用のワイパーのメインパーツであると特定できる場合はどうでしょうか。実は電動性なので、第85類の中を見ていくと、第85.12項にウインドスクリーンワイパー(自動車又は自動車に使用する種類のものに限る。)とあります。
本品は、同項の自動車又は自動車に使用する種類のウインドスクリーンワイパーの部分品と認められるので第16部注2(b)の規定により、第85.12項に属することとなります。従って、この場合も、上記除外規定により第87.08項には分類されません。通則1で所属する項は決まりです。
では、その細分はどうでしょうか。あくまで、この項の物品の部分品なので、第8512.90号に分類されることとなります。
このように、機械類の部分品については、一口で「専ら又は主として使用する部分品」といっても、必ずしも当該機械類が属する項に分類されるとは限りません。多くの機械類は、複雑であればあるほど、多数の他の機械類が構成部品として使われています。これらの構成部品である機械類が単独で提示された場合、それが他のいずれかの項(同一の部の項とは限りません)に該当するかどうかをチェックする必要があります。該当する項がある場合は、それぞれ該当する項に関係する部又は類の注の規定もチェックし、除外規定があるかないかを確認します。一義的に複数の項に該当しそうな場合であっても、除外規定があり、それで整理がつくのであれば分類が確定します。2つ以上の項に該当するとみられる場合で、かつ、除外規定がない場合は、通則3(a)の規定により、いずれの項の規定がより特殊な限定をして記載しているかによって判断します。多くの場合、「部分品及び附属品」という記述よりも、「・・・の製品」と具体的に記述している方がより限定して記述がされた規定とみられるケースが多いでしょう。ただし、この判断は、個別の事案ごとに検討する必要があることを重ねて記しておきます。
以上、機械類等の部分品及び附属品のHS分類が分かり難い理由について、考えてみました。確かに、上記の通り、機械類の部分品といっても、当該部分品自体が機械類として項の規定として定められているものが多く、これらをつぶさに確認する必要があるという点で面倒であること、次に除外規定も、ものによっては複雑であることなどが挙げられます。しかしながら、分類の基本である、分類しようとする物品を正しく把握し、HSのいずれの項に該当するか丹念に検討し、注の規定に従って分類していけば、必ず分類できるはずです。
要は、あまり難しく考える必要はないということです。持って回った説明よりも、物品の特性を見極めた上、規定に従い粛々と判断するということにすぎません。必ず結論にたどり着きます。難しいと感じるときは、物品が何であるか、何のための製品かをもう一度確認してみることも有効です。
今回、これらについて若干の事例を挙げて説明してみました。機械類等についての、更に具体的なHS分類については、稿を改めたいと思います。
以上意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であり、現在所属する、あるいは過去所属していた組織の公式見解というものではないことをお断りしておきます。
(以上文責:宮崎千秋)