Project
HS LABの開発経緯
-EPAに特化したHSコード検索サイト-
経済産業省 令和3年度補正予算
経済連携協定関連ツール開発実証事業
「FTA活用のための原産地証明デジタルツール実証事業」実施報告
プロジェクトメンバーご紹介
- 株式会社アイシン
- 清水 一 様
- 株式会社アイシン
- 今井 智映子 様
- 株式会社アイシン
- 齋藤 紗都美 様
- 日本鉄鋼連盟
- 加納 呼亜 様
EPAにおいて、HSコードを分類する場面は以下の2つです。
- 輸出品に対して輸入国で課される関税率、EPAの原産地規則を調べる。
- 関税分類変更基準 (CTC) に基づく原産資格調査を行う。
EPAを利用する上でHS分類は避けては通れない作業ですが、実務を行う際のお困りの声を多くお伺いします。
ただでさえ難しいHS分類ですが、輸出入申告においては、最新版の品目表に基づいて分類を行う一方で、EPAにおいては、利用したい協定が採用するHS年版に沿って分類する必要がある点に注意が必要です。
このような背景のもと、東京共同会計事務所はEPAに特化したHSコードの検索サイト「HS LAB」をリリースしました。
利用協定に沿ってHSコードを検索できる点と、業界別のガイドが充実している点がポイントです。
EPAデジタルイノベーションフォーラムでは「HS LAB」の開発にご尽力いただいた株式会社アイシン様、一般社団法人日本鉄鋼連盟様にお話を伺いました。
株式会社アイシン EPAとHSコード手の内化の歴史
専門部署を立ち上げ、「業務標準化を推進」
アイシン 齋藤様
アイシンが行う原産資格証明のうち、得意先様からのご要望に応じて実施する証明が約90%、自社輸出分の証明が約10%となっております。弊社は自動車業界の八百屋とも呼ばれるほど取扱品目が多く、原産資格調査を行う産品も多岐に渡ります。
これまで営業担当者がそれぞれに対応していましたが、2019年にEPAの専任組織を立ち上げました。全16名で、2022年は調査件数:約2,800件/サプライヤー証明書発行件数:約15,000件を対応しています。弊社グループ企業のEPA業務についても当組織で集約を行っており、業務監査や運用ルールの統一を実施しています。
弊社の専任組織は、「CS(カスタマーサティスファクション)」「EPAプロ集団」「女性の活躍推進」をキーワードに日々、業務に取り組んでいます。得意先様からのご要望に応じて対応する証明が多数を占めますので、お取引先様の期待に応えられるよう、専門知識を有したプロとして、業務品質の向上に努めています。また、女性比率も高く、過去に女性の活躍が社内で表彰された経験もあります。 ※所属部署等は、セミナー当時情報に基づいております。
「HS分類ルール」と「製品」双方の理解が不可欠
アイシン 今井様
EPA業務を実施する上で、仕入先様の負担や自社の管理工数を考慮し、弊社はCTCルールをベースとした証明を行う方針としました。
しかし、CTCルールでの証明において必須となる「HSコードの手の内化」への道のりは考えていた以上に遠く険しい道のりでした。産品にHSコードを付与するためには、分類ルールを理解しなければなりませんが、何を見れば良いのか全くわからないなか、税関のホームページ等を頼りに輸出統計品目表等を確認しながら学んでいきました。通則や部注や類注を確認し理解する必要がある中で、記載されている内容や表現が難しく解釈に苦しむこともありました。
HS分類においては、関税分類ルールの理解だけでなく製品に対する理解も必要であることがわかりました。例えば電動ウォーターポンプを証明するには、構成品一つ一つについて用途、形状、材質を確認し、ものによっては構造や出力まで確認する必要があります。
このようなノウハウは極めて属人化しやすく、これまでのプロセスで得た情報のマニュアル化・平準化と合わせて人材育成を行うことで初めて組織の力と呼べることに気づきました。
中堅中小企業の課題解決が自動車業界のEPA活用促進のカギ
アイシン 清水様
自動車の原産性証明は、非常に数の多い構成品の原産性証明が必要となることが大きな特徴です。約3万点の構成部品からなる完成車の原産性を証明する場合、Tier1の部品メーカーから、その先にある仕入先企業も含めたOne Teamでの証明連携が必須です。一方でTier2以降の企業の多くが自社でEPAを活用する機会がなく、知識・経験・リソースが少ない傾向にあるため、こうした企業へのサポートが業界全体の課題となっていました。
このような企業の中には原産性のキーとなる塑性加工工程を行う企業も少なくありません。例えば、鉄鋼のロール材(7211.23)からドアフレーム(8708.29)を生産している企業等、自動車部品のHSコードと、その原材料のHSコードが特定できれば、CTCルールで簡単に原産性を証明できる場合があります。
ただ、自動車部品のHSコード分類に関しては、いくつか課題があります。
関税分類用語と自動車専門用語に乖離があることも課題の一つです。日本税関のホームページで関税分類検索のページがありますが、自動車業界でよく使われる「トランスミッション」というワードで検索しても該当するHSコードはヒットしません。HSコード品目表上では「トランスミッション」ではなく、「ギヤボックス」という単語が使われているためです。
原材料のHSコード分類についても課題が存在します。JIS規格と材料のHSコードが紐づかない点は課題の一つと言えます。日本国内でのモノづくりの基準はJIS規格であるため、JIS規格はわかるがHSコードはわからないというお困りの声もよく耳にします。その中でも鉄鋼の分野は特に複雑で、含まれる成分や炭素含有量、板厚、幅の長さ等、細かい条件をすべて網羅しないと正しい分類に辿り着けません。
「HS LAB」では、自動車業界用語から可能性のあるHSコードを検索できる機能を開発いただきました。また、日本鉄鋼連盟様のご協力により鉄鋼のHSコードと我々が普段利用するJIS規格との紐づけが実現しました。弊社がHSコードに関して右も左もわからなかった頃を振り返ると、このようなツールはHSコード分類業務の支援、そしてEPAの利活用促進につながると確信しています。
鉄鋼業界のEPAとHSコードに関する取組
業界一丸となり、EPA活用体制を整備
日本鉄鋼連盟 加納様
日本の粗鋼生産は高度成長期以降、概ね1億トンで推移しています。このうち海外向けが4割を占め熾烈な国際競争を戦っています。
主な輸出先は、ASEAN、中国、韓国、台湾、メキシコ、インド等ですが、EPAがASEAN、インド等への輸出が増加するドライバーとなっております。
日本の鉄鋼業界はALL JAPANで一丸となってEPA交渉に参加してきました。EPA交渉の全盛期にはマーケットアクセス交渉、原産地規則交渉ともに業界統一ポジションを策定し、官民連携して対応した結果、需要業界のニーズに合った関税減免と極めて使い勝手の良い原産地規則が実現しました。
複数協定発効時には、EPA説明会の開催や、鉄鋼連盟会員向けサイト「EPAナビ」を整備し情報発信をすることで、業界全体としてEPAを活用する機運を高めて参りました。このような歴史を経て、現在はフルにEPAを活用できており、かつ、トラブル対応を含む通商問題の官民連携体制を構築できております。
日本鉄鋼連盟に蓄積されたHSの知見とノウハウ
日本鉄鋼連盟 加納様
1回の取引量・金額が膨大、かつ、各国は基幹産業として市場を守る傾向が強い鉄鋼業界においては通商法提訴が多く発生します。そのような状況で日本の市場をきちんと守ることも弊連盟の大事なミッションです。EPAの交渉に加え、通商法提訴対応や輸入モニタリングにおいてもHSコードは非常に重要であるため、弊連盟で体系的に整備・管理をしております。
HSコードの知見に加え、弊連盟はJIS規格の知見も有しています。JIS鋼材規格に関する国際協力事業を実施するなかで、JIS規格と併せてHSコードのレクチャーも行っています。
そんな中でEPA活用推進会議に参加し、他業界の皆様にとって鋼材のHSコードは難解で、原産地証明のハードルになっていることを知りました。「国内のユーザー様がお困りなのに、海外の方々へ教えている場合か!」と感じ、これまでの経験を活かして、HS LABのコンテンツを構築しました。自動車業界の皆様より、「モノづくりの現場では、鋼材は、JISの種類の記号等でやり取りをしている」とのお話を伺い、JIS/JFS規格とHSコードの対比表を作成しました。JIS規格を編纂する標準化センターとも相談しながら作成したものとなります。
3つのポイントを押さえれば鋼材のHSコードの理解は容易!
日本鉄鋼連盟 加納様
鋼材のHSコードを理解するポイントは以下3つです。
- 鋼材×形状で整理
- 鋼種の識別は、検査証明書(ミルシート)で化学成分値を確認
- 専門用語をわかりやすい言葉に置き換える
3鋼種(合金鋼 or 非合金鋼 or ステンレス鋼)のどれに該当するか、どのような形状かがわかれば、
どのHSコード(4桁レベル)に該当するかが整理できます。このマトリクスをHS LABにも掲載しています。
とはいえ、3鋼種のどれに該当するのかを判断するのは容易ではありません。通関実務上は、鋼材につけられている検査証明書(ミルシート)で化学成分値を確認し、HS品目表における鋼種の定義に当てはめて識別する必要があります。チェックする化学成分値の定義についてもHS LABですぐに確認できるよう工夫していただきました。
最後のポイントは専門用語です。「ブリキ」と聞けばブリキのおもちゃを思い浮かべますが、「すずをメッキしたもの」と言われてもピンとこないと思います。会員企業がよく使う言葉で貿易統計の定義づけをしていますので、貿易統計で使われている区分をそのままHS LABにも反映させました。この3点のエッセンスがHS LABに詰め込まれています。
鋼材は様々な分野でご活用いただいている産品です。今回の取り組みでは自動車業界の皆様と連携をさせていただきましたが、ぜひ、今後、他の業界との連携が広がっていけばと思っています。
まとめ
今回はアイシン様と日本鉄鋼連盟様に、自動車業界、鉄鋼業界におけるこれまでのEPA及びHSコードに関する取り組みをお話いただきました。以前より積極的にEPAの活用に取り組まれていた皆様にアドバイスをいただけたお陰で、「HS LAB」というコンテンツを開発することができたと感じております。
今回お話いただいた自動車、鉄鋼のみならず、多数の業界並びに企業の皆様にご協力いただき作成をしたコンテンツを「HS LAB」に掲載しておりますので、HS分類にお困りの方はぜひご活用ください。
FTAをもっと簡単に!
HS LAB
HSコードの情報提供サイト
詳しく見るまた、自動車業界、鉄鋼業界における取り組みについては、以下の記事でも詳しくご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
- 業界単位の先進的な取組一自動車業界一(1.2MB)
- 業界単位の先進的な取組一鉄鋼業界一(1.5MB)
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