Project

JAFTAS®誕生秘話と今後の展開

経済産業省 令和3年度補正予算
経済連携協定関連ツール開発実証事業
「FTA活用のための原産地証明デジタルツール実証事業」実施報告

日本自動車工業会(以下、自工会)と日本自動車部品工業会(以下、部工会)における、EPA原産性証明手続き標準化活動の中で「JAFTAS®」は誕生しました。EPAデジタルイノベーションフォーラムでは、トヨタ自動車株式会社 森脇様より、JAFTAS®誕生に至るまでの経緯を、そしてNTTデータ 河田様より、他のシステムとの連携等も見据えた今後の展望についてお伺いしました。

プロジェクトメンバーご紹介

トヨタ自動車株式会社
森脇 英直
株式会社NTTデータ
河田 禅

自動車業界におけるEPAへの取り組みとJAFTAS®誕生経緯

国内産業の発展に大きく寄与するEPA

トヨタ 森脇様

EPAは、国内生産を維持・拡大させ、日本の国内に「モノづくりの力」を残す強力な武器となります。例えば、日本からマレーシアへ300万円のガソリン車を輸出する場合、通常であれば、車両価格300万円に30%(90万円)の関税がかかります。さらにマレーシアでは車両価格と関税額の合計に対して105%(410万円)の物品税がかかるため、元々の車両価格に関税と物品税を加えた金額は800万円となります。一方でEPAを活用すると、関税分(90万円)のセーブが可能です。すると、物品税を加算した車両価格の合計は615万円となり、EPAの利用有無によって185万円もの差が生じます。輸出時にEPAを活用することで、国際競争力が高まり、結果として日本国内のサプライチェーンにおける生産の維持・拡大につながります。

課題への対応 そして業界横断システム「JAFTAS®」の誕生へ

トヨタ 森脇様

重要な役割をもつEPAですが、活用するには課題の解決が必要でした。自動車は、生産に数多くの構成品が使用され、かつ、深く複雑なサプライチェーンが存在しており、原産資格調査の証明が最も難しい産品の一つです。

自動車の輸出でEPAを活用するには、仕入先様の協力が不可欠ですが、JAFTAS®導入以前は、依頼元毎にバラバラなフォーマットを使用して依頼をしており、仕入先様は様々なパターンでの対応を迫られていました。それが原産資格調査手続き習得の妨げとなり、精度や所要リードタイムに影響を及ぼしていたことに加え、何より仕入先様に大きな負荷がかかっていました。

そのような状況下、部工会より自工会に対して問題提起をいただき、両者共同で改善に向けた業務の標準化活動が始まりました。そして、標準化活動を各社の実務に落とし込み定着させるには、「型にはめる」ことが必要でした。すなわちそれは、業界標準システム「JAFTAS®」の実現です。しかし当初は、民間主導で行う業界横断の仕組み作りの前例がほぼなく、周囲に話しても「そんなこと本当に実現できるの?」といった反応が多かったです。
システムの検討体制を整えるべく、EPA業務の標準化を一緒に進めて来た部工会の国際物流ワーキングと自工会の特恵原産地規則分科会よりメンバーを選出し、2018年秋にシステム開発にむけた共同検討チームを立ち上げました。当時、日EU協定、CPTPP、RCEP等の大型EPAの発効を控え、EPA業務の急拡大が見込まれていたこともあり、約2年後の2020年7月、“コロナ禍前に計画されていた東京五輪の開会式まで”のJAFTAS®立ち上げを目指しました。

JAFTAS®の立ち上げに至るまで

  1. 構想立案
    初めに以下の通り、JAFTAS®の骨子を確定。

  2. システム化パートナーの選定
    会計事務所、コンサル会社、ITベンダー等へ、システム構想に関するオリエンテーション実施。
    その結果、東京共同会計事務所(以下、東京共同)/株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下、NTTデータ)のチームを選定。

  3. 仕様検討
    ユーザーと東京共同/NTTデータで「JAFTAS®検討会」を開催し、仕様を検討。立場が異なり、特定の決定権者が存在しないプロジェクト編成の中、短期立ち上げを実現する為に、留意したのは、以下の3点。

    • 個別事情の主張ではなく「全体最適」
    • 課題を次回に極力持ち越さないよう「即断即決」
    • 参加者の多様な声を吸い上げる「オープンコミュニケーション」
  4. 導入・展開
    コロナの影響を最小限にとどめ、当初予定の2ヶ月後、2020年9月にJAFTAS®稼働開始。ご利用いただく仕入先様に対して、完成車メーカー主催説明会に加え、東京共同会計事務所による操作研修を実施。

リードタイムを従来の2/3に短縮  JAFTAS®の導入効果を実感

トヨタ 森脇様

立ち上げから2年強が経過した現時点で、利用企業数は1,600社を超えました。多くのEPA業務がJAFTAS®で行われ、定量面/定性面ともに、目に見える形で効果が出ています。
まず定量面ですが、当社の実績を例に取りますと、調査の平均リードタイムが導入前の51.4日から34.6日と、約2/3に短縮しました。
次に定性的な効果として、仕入先様での証明精度の向上を実感しています。システムで「型にはめた」ことによる単純ミスの削減とJAFTAS®サポートデスクによる業務とシステム操作の両面支援が精度向上につながっていると感じています。
さらに、我々依頼者側の観点では、従来のメールベースでの業務ではわからなかった進捗状況がJAFTAS®によって可視化され、ボトルネックが明確になりました。これにより、滞っている部分に対して迅速に適切な対応を行えるようになりました。

大きな効果を実感していますが、EPAの更なる利活用促進に向けて、システムの継続した改修に加え、今後は、2次仕入先様以降へのJAFTAS®の普及活動や蓄積されたデータの活用、さらには日本商工会議所(以下、日商)の「第一種特定原産地証明書発給システム(以下、発給システム)」との連携等にも取り組んでいければと考えています。

「JAFTAS®」今後の展望について

TKTC 元杭

森脇様のお話の通り、自動車業界の取り組みから生まれたJAFTAS®ですが、2022年度に実施した経済産業省の経済連携協定関連ツール開発実証事業(以下、実証事業)において更なる機能拡充を行い、また、他業界への展開も進めて参りました。10業界の企業へ実証事業用にご用意したJAFTAS®を無料開放し、機能改善に関するご要望もヒアリングしました。いただいたご要望を踏まえ、利便性向上に向けた検討をNTTデータ様と開始しています。

JAFTAS®に蓄積されたデータは「宝の山」 有効活用を模索

NTTデータ 河田様

実証事業では、これまでJAFTAS®に搭載していなかったHSコードの管理機能を開発しました。本機能により、各社の製品情報とHSコードの分類根拠を紐づけてマスタ管理することが可能になりました。マスタ管理によって情報が蓄積されていき、HS分類等の業務効率化が期待できます。
HSコードに限らず、JAFTAS®に蓄積されたデータは「宝の山」です。今後はこのようなデータの活用検討を進め、EPAの利活用促進と各社の経営課題の解決に貢献したいと考えています。日々の業務量や工数の把握、証明難易度等の傾向分析といった定型分析から、AIを活用した誤謬チェックやHSコード分類支援等の新規機能開発、さらには業界全体の統計データを元に政策提言を行う等、様々な局面でデータを活用できると確信しています。

各種貿易システムがつながる世界へ 〜 JAFTAS®と日商発給システムの連携 〜

NTTデータ 河田様

データ活用のみならず、他のシステムとの連携も検討しています。

近年、原産地証明書データの電子交換の実現に向けた取り組みが行われており、日インドネシア協定については2023年6月中を目途に、日商「発給システム」から輸入国税関への原産地証明書データ電子送付が実現する見込みです。それだけではなく、貿易プラットフォーム間での連携検討も近年活発に行われています。このような状況において、今後はJAFTAS®の改善にとどまらず、貿易関連の各種デジタルプラットフォームとの連携により、貿易業務全般の効率化を目指していきたいです。

JAFTAS®に関しては、まず第一歩として、日商「発給システム」との連携を前向きに検討しています。JAFTAS®と発給システムの間で原産品判定依頼のデータと根拠書類を連携することで、これまで利用者が、JAFTAS®と発給システムの双方で行っていた作業をJAFTAS®で完結でき、工数削減と作業品質の向上が期待できます。さらに、JAFTAS®の自動判定機能で原産性が担保された情報が連携されることで、日商判定事務所における審査業務の負荷軽減にも貢献できると感じています。

自動車業界標準システムから、日本全体のEPA社会インフラを目指して

NTTデータ 河田様

最後にJAFTAS®の在り方についてもお話をさせていただきます。システムがEPAの利活用促進や貿易手続き全般の円滑化を後押しする重要なツールであることは言うまでもありませんが、今の時代、各企業がシステム投資を行うことは簡単ではありません。高度経済成長期においては、各企業が自社の努力の中でビジネスを拡大していく世界でした。しかし、今後は人口も減少し、市場も頭打ちになってきます。そのような状況において、各企業が個別に努力をしていくのではなく、それぞれが協力しながら共に成長していく「共助」の取り組みが必要になってきます。
JAFTAS®は自動車業界で始まった「共助」取り組みだと認識しています。今後は、JAFTAS®が自動車業界の枠をも超えて「民間事業者が協調・連携して利用するEPAの準公共的な社会インフラ」として進化していくことが、重要だと感じています。

まとめ

TKTC 元杭

トヨタ自動車 森脇様からのお話にもあったように、産品の生産から輸出に関わる日本国内全ての企業がEPAの受益者であり、EPAを活用した輸出の促進は日本企業の競争力強化に大きく貢献すると認識しています。東京共同は、今後も企業の皆様のお役に立てるサービスやシステムを検討し、少しでも業務のサポートができればと考えています。

今回の実証事業において、JAFTAS®を他業界へも展開するチャンスをいただき、新たな気づきを多く得ることができました。実証事業を企画いただいた経済産業省の皆様、事業にご参加いただいた業界団体ならびに企業の皆様、そしてNTTデータ様をはじめとするビジネスパートナーの皆様に改めて御礼申し上げます。今後、JAFTAS®は様々な業界と連携し、日本全体のEPA活用を促進する共通プラットフォームとして進化を続けていきます。

JAFTAS®についてもっと詳しく知りたい方はぜひこちらをご覧ください。 JAFTAS - システム

自動車業界におけるこれまでの取り組みについては以下の記事でも詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
業界単位の先進的な取組一自動車業界一(1.2MB)

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また、自動車業界、鉄鋼業界における取り組みについては、以下の記事でも詳しくご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。

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