EPA原産地規則にも使われている世界共通のHS品目表。
輸出国と輸入国でなぜ分類が異なるケースが起きるのか、
またそれを防ぐには?

EPAを活用しEPA特恵関税を適用して輸入する企業、自社の輸出品に関し日本の原産品であることの証明サービス(以下「原産地証明書等」という)を提供する企業にとって、原産資格の判断は場合によっては結構厄介であると感じられるかもしれません。時として、日本の輸出者が提供した原産地証明書等が、輸出先で当該貨物が輸入される際に、当該輸入国税関当局により当該貨物のHS分類が違っていると指摘され、トラブルになることも考えられます。言い換えれば、HSのバージョンが同じであるのに、輸入国での当該貨物のHS分類と原産地証明書等のHS分類が異なっていると、その証明等が役に立たないということになります。また、同じ貨物を複数の国に輸出している場合、輸出相手国によりHS分類が異なるということもあるかもしれません。本来は、各国同じHSを使用しているのであれば、ある特定の物品の関税分類(関税率表上の当該物品の所属の決定)について、少なくともHS(品目表番号を示す最初の6桁)分類番号は同じでなければなりません。ではなぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。またこうしたトラブルは避けられないのでしょうか。更には国際的に統一した分類はどのように確保されるのでしょうか。

以下この稿において、特に断らない場合は、日本から他の締約国に貨物を輸出する場合を想定して記述します。輸入者、輸入国、輸入国税関当局とは、日本から輸出する貨物の輸出先である締約国の当該貨物の輸入者、当該輸入国の税関当局を指すものとします。

1.なぜ、HS分類の不統一が生じるのか

HS分類とは、今、目の前の物品が、HS品目表(HS条約の附属書である品目表。この稿は単に「HS」と略記する。)のいずれの項に該当するかを決める作業です。すなわち、HS(特に項)の規定を正しく解釈し、分類しようとしている物品が当該項に当てはまるかどうか、見極めることだとも言えます。そのポイントは、①分類しようとしている物品を正しく把握すること、及び②HS品目表の項の規定を正しく解釈すること、言い換えれば、各項にどのような物品が属すると規定されているか(各項のスコープ)を正しくとらえることの2点です。(そのために、解釈に関する通則の規定がありますがこの解説は別の機会にお話しします。)

この稿では、物品は正しく把握されていることを前提として、特に②の各項の規定の解釈をめぐる問題を中心に記述してみます。(なお、以下の記述は、筆者の職務経験等から得た事実関係に基づくものですが、意見等は、個人的なもので、過去、現在所属する機関、組織とは関係がないことをお断りしておきます。)

(1)HSの各項及び注の規定の解釈上の問題

HS条約は英・仏両文を等しく正文とすると規定しています。これは、実は第1類~第49類までは英語でドラフトしたものを仏語に、第50類から第97類までは仏語でドラフトしたものを英語にそれぞれ翻訳したものです。当然ですが、英語・仏語以外の言語を国語とする国においてはHS分類を法制化して自国で実施するためには、それぞれ自国語に翻訳しなければなりません。ここには必然的に翻訳される物品名が、必ずしも同一の言葉(品名)ばかりとは限らず、またその意味する範囲が若干異なる可能性が生じる場合もあり得ます。(これは翻訳技術上の問題なので、深くは掘り下げませんが、社会生活様式・習慣、環境、文化の違いによるものであり、ある程度、必然的なこととも言えましょう。しかし、HS分類の世界では、これさえも乗り越えなければなりません。)

以下、主として言葉・物品の表記と解釈の問題と、モノの捉え方の問題について述べてみます。

(a)物品の表記とその意味について

前述の通り、各国はHSを自国語に翻訳し法制化していますが、文言によってはその意味するところが微妙に異なるものもあるでしょう。HSではExplanatory Notes(以下「EN」と略記)を用意し、そこには物品の解説も記載されています。私もメンバーの一員であった日本のHS導入プロジェクトでは、ENを翻訳し「関税率表解説」とする作業も担当し、あらゆる辞書、百科事典、専門書を用意してこれらと首っ引きで訳していきました。英語の辞書、事典等で内容を確認し、物品等を考え、それを辞書(広辞苑等)や事典で確認し、同じ内容、意味である日本語の表記・表現をあてていくという作業です。まさに文化と文化の接点を探っていくという感じでした。HSの開発はCCCN(関税協力理事会品目表)をベースとして行われました。そのCCCNはBTN(Brussel Tariff Nomenclature)で、その名から分かるように、欧州を中心とした社会、生活習慣を反映した品目表の様相をしていますし、物品名を表す言葉の意味するものも当然そうした内容となってきます。例えば「チコリー」は、当時日本人にはさほどなじみがありませんでしたが、欧州では、「チコリー」といっても厳密には別々の種を指す野菜で、主に2種類、Cichorium endivia(エンダイブ、ニガチシャ)と Cichorium intybus, var. foliosum (ウイットルーフチコリー、キクニガナ)があり、両者を明確に細分しています(例えば第07.05項の細分)。

こうした品目表の建て付けであることによっても、自国の習慣との違いのため、また意味する物品の概念にずれがある場合などにより、分類の相違(例えば項の規定に関する解釈の違い)が起こる可能性もあります。例えば、食習慣の違いにより、第2類に含まれる「食用に適する種類の動物の肉及びくず肉」の判断も異なる可能性があります。
いくつか例を挙げてみます。

① 第1類及び2類にはswine(豚)が記載されていますが、イノシシ(wild boar)は記載がありません。イノシシは厳密には豚でないので、少なくとも日本ではその他の動物に分類されそうですが、ENでswineにはwild boarを含むと記載し、豚と共に同じ項に分類するよう統一されています。日本の関税率表も備考としてその旨を規定して明確にしています。

ではイノブタは?イノシシでも豚でもないのでその他の動物か?という問題が起こります。豚もイノシシも同じ項の動物なので、その交雑種も同じ項に分類し、その項の中で、細分としてイノブタが特掲されていなければ、その他の号に分類するのが妥当かと思います(実行関税率表では、豚の肉は、国内税率細分で、「1.イノシシ、2.その他のもの」 となっています)。

② HS発効当時、ライ小麦なるものが輸入されました。小麦とライ麦のハイブリッドです。当時小麦(第10.01項)に分類されれば食管法該当でIQ(輸入割当品目該当)、ライ麦は第 10.02項でIQ非該当でした。この分類問題は、すでに最初のHS改正時に手当てすることが合意されていて、その後の改正により第10.08項のその他の穀物に分類され、その細分として第1008.60号に特掲されました。

③ 第3類の魚介類は、例えば、通称サケ、マスといってもその区別は容易ではありません。マグロについても同じです。従って、HSでは全て学名を付記して明確にしています。(時には分類に関する学説の争いもありますが、ここでは省きます。)

④ よく例に出されるのがごぼうです。実は、HS導入後、筆者ら分類担当者は、ごぼうは英語でburdockといい、第12類のENに乾燥したごぼうの記述があったことや、西洋では野菜として食されていないという話(「ゴボウ:edible burdock.原種はヨーロッパ及びアジアの湿地帯に広く分布する。雑草として生えていたものが栽培品種として日本において改良され、作物化したもので、日本人のみが利用する。」(保育社標準現職図鑑全集第13巻(昭和54年11版)))などから、HS品目表では野菜類ではなかったとして、それまで根菜類として第07.06項に分類していたものを、その他の植物に分類変更をしました。その結果、関税率はこれまでの野菜類よりも低くなり、ごぼうの輸入量が急増しました。これに驚いた農林水産省の担当者は、何とかしなければと実質的に税率を元に戻るような手当をしたはずです。その後、私は1993年在ブラッセルのWCO事務総局で分類のテクニカルアタッシェとして単身赴任しました。ある日、マーケットで立派なごぼうらしきものを見つけ、早速、きんぴらごぼうにしてみました。少し鬆が入った感じでしたが、味に全く問題はありませんでした。私は第07.06項のサルシファイは実はごぼうなのではないかと思い、当時、科学小委員会出席のため出張で来られていた方に、それをお持ち帰り頂き、ごぼうかどうかの確認をお願いしました。結果は日本のごぼうとは少し違い、いわゆるセイヨウゴボウであるということでした。現在の第7類のENには、第07.06項にごぼう(Arctium lappa)が記述されています。(因みに、手持ちのWebster‘s collegiate dictionary(1981)では、burdock は「any of a genus (Acticum)・・・」と記載されています。一方でsalsify については「of various herbs, ・・・herb(Tragopogon porrifolius ) with a long fusiform edible root. called also oyster plant, vegetable oyster」と記載されていることから、属名はTragopogonで、ごぼうのArctium属とは別物ということになります。)

⑤ トマトは野菜か果物か。今は問題になりませんが、1890年代初期、米国の関税率は野菜には高関税が課せられ、果物は無税であったため、輸入者はトマトが果実すなわち果物であると主張していました。最高裁の判決は、トマトは植物学的には果実であるが、野菜として食されるとして、税関当局の勝訴となりました。いわゆる、「社会通念上は野菜」という解釈であるということでしょう。日本でも農林水産省の基準は、生産者サイドからの見方で、一年生草本から収穫される果実のスイカ、メロン等は野菜(果実的野菜)で、二年生草本又は木本から得られる果実は果物となっていますが、消費者サイドからの見方(例えば日本食品標準成分表)ではこれらは全て果物となっているようです。

なおHSでは、例えば、オリーブの果実も野菜に含まれています。逆に大豆は採油用の種子に分類され野菜から除かれていますが、未成熟の大豆である枝豆は野菜です。

こうした食生活の変化・広がりや、様々な国の慣習、その他の要請に応じて、特に最近の改正ではFAO(国際連合食糧農業機関)等の要請により、食品材料の捕獲等に関連した魚介類等の海産物や動物等の特掲も目立ちます。なんといっても驚きは、CITES(ワシントン条約)の要望により、2002年改正において霊長類が第1類に、第2類(食用の肉及びくず肉)にも同じく霊長類が記述されたことだと思います。こうなると、今次改正の食用に適する昆虫の分類新設も驚くに足りないことかもしれません。それにしても、食用のものであっても、いまだに腸、膀胱、胃が第2類(食用の肉及びくず肉)から除かれているのは不自然な気もします。

また今後、遺伝子組換えで、植物については形態学的には種のレベルで大きく変わるものは現れないでしょうが、動物やその調製品になると分類が厄介になるかもしれません。例えば、大豆たんぱくによるミンチ肉のような食べ物、これを更に加工した例えばハンバーグ用のものとなると、分類判断が難しくなるかもしれません。

更に、例えば「3D printer」を直訳して「三次元印刷機」としてしまえば、第84.43項の印刷機(printing machinery)に分類されてしまうかもしれません。「モノ」の実態からみれば、鋳造機・成型機でしょうから、例えばプラスチックを用いるものは第84.77項でしょうし、金属材料を削って複製するものは、第84.66項の工作機械が妥当かもしれません。金属粉を噴射成形するものは、また別の項に分類される可能性があります。(今回の改正で第84.85項として特掲されました。)

「たかが言葉」ですが、「されど言葉」です。

(b)モノの捉え方の問題(項の規定そのものの範囲や定義)

これも言葉の問題ではありますが、上記はどちらかといえばネーミングの違いの問題で、具体的に解説したり、動植物であれば学名を併記したりすれば、その範囲内では問題は解決するでしょう。他方、以下は、項の規定の範囲の捉え方、解釈の問題で、こちらの方が分類の不統一となる可能性が高いと思われます。定義が明確でない、あるいは定めにくいものの場合で、具体的には次のようなことが考えられます。

① 2022年改正で、細分が設けられたグルラム(第44.18項)とその他の集成材(第44.12項)の違いなども、定義や解説が用意されなければ、若干、その解釈に混乱が生じるかもしれません(これについては説明を加えて後述します)。同じく、微生物が産生する油脂も、アラキドン酸リッチなものに限らず、微生物の種類、培養基質の組成などにより様々な組成の油脂が得られるかもしれないので、大豆油等に含まれるγ-リノレン酸を多く含むもの、またカカオ脂類似の油脂を産生するものなど、植物性油脂に類似するものもあるでしょう(鈴木修「機能性油脂の微生物生産」『油化学』(総説)参照)。あるいは、こうした油脂の相互の混合物なども取引されるかもしれません。微生物由来の油脂についても、実務を容易に処理するためにも明確な定義や、判別方法なども定める必要があるかもしれません。

② 古い話で恐縮ですが、第27.10項の石油関係については、ガソリン、揮発油、灯油、重油等、これらに対応する英名などの名称はありますが、その性状が必ずしも各国一致しているわけではありません。HS開発当時は細分を設けられないままでしたが、1996年か2002年改正で、蒸留試験等よる定義と細分が設けられました。このように、仮に対応する訳語があったとしても、内容まで完全に一致するものばかりではありません。

③ マスチック、接着剤、プラスチックの関係について、前二者とプラスチック(第39類)の違いについては、これらの注の規定及びENの規定によりある程度区別がつくと思いますが、閉塞用のコンパウンドその他のマスチック(第32.04項)と、調製膠着剤その他の調製接着剤(第35.06項)は区別がつきにくいものがあるかもしれません。例えばsealantと呼ばれるプラスチックのプレポリマーを含む調製品について、時として調製接着剤と思わせるほどしっかりと接着する物品もあると思います。第35.06項の調製接着剤は「他の項に該当するものを除く」とあるので、第32.04項に該当する物品は第35.06項には含まれません。しかし、第32.04項のENには接着性のシール剤も含まれる旨、及び「種々の表面を結合するために使用される」とあります。用途は物品の把握の参考にはなりますが、使い方により分類が異なるので適切な分類方法ではありません。インボイスにボンドと記載されていれば第35.06項に、シーラントと記載されていれば自動的に第32.04項に分類するというわけにもいかないかも知れません。実際に物品を確認することも重要です。

(3)解釈の相違による場合

以上は、特定の品名についてさえ、国あるいは立場により判断が異なる可能性が考えられる例ですが、他方、通則も含めた分類解釈と適用の問題に至っては、いわゆる「判断」が入ることとなるので、その判断の違いが生じる可能性は否定できません(これを可能な限り避ける方法は実物を確認することですが、それでも意見が分かれるというものもあるかもしれません)。

例えば、通則3(b)における「小売用の包装にした物品(セット)」や、混合物等で2以上の項に該当することとなる物品の分類において、これらを構成する物品、物質、材料等のうち、いずれが最も重要な特性を与えているかという判断、あるいは通則2(a)でいう「特定の項に定める物品には、未完成であっても完成品としての重要な特性を持っているものを含む」との規定での判断の問題です。どの程度の完成度であれば完成品としての重要な特性を有しているといえるかは、判断の問題ですので、そこには個人差が入り込む余地があり、結果として分類が異なる可能性があります。

更には、例えば項の規定(第71類)で、「全部又は一部が貴金属又は貴金属を張った金属からなる製品は、・・・この類の他の注において別段の定めがある場合を除くほか、全てこの類に属する。」とあります。そして、同類注2(A)で、「第71.13項から第71.15項までには、貴金属又は貴金属を張った金属を些細な取付具、装飾物その他の部分(例えば、頭文字、はめ輪及び縁金)のみに使用した物品を含まない」と規定されています。この場合の「些細な・・・その他の部分」のみに使用した物品の解釈と適用について、具体的にどの程度のものを指すかの判断は、物品それぞれについて検討することももちろんですが、その判断は個人的な印象も入り込む余地があると思います。また、機械類に関する附属品の判断についても若干議論が起こり得ると思います。(部分品及び附属品に関しては、改めて解説する予定です。)

いずれにしても、これらは最初に述べた、項の規定の解釈という点もさることながら、今分類しようとしている対象物、実物についての性質・状態内容等の把握が十分かどうかによるところが大きいですが、それでも、関係する者全員の判断が一致するものばかりとは限りません。

2.輸出国と輸入国でHS分類が異なる場合どのようにすればよいか

輸入貨物の関税分類(HS分類)は、当該輸入国の関税率表の解釈と適用の問題なので、当該輸入国の税関当局が判断することとなります。従って、HS分類に関する部分(最初の6桁のコード)であっても、これまで述べてきたように、輸出国での輸出申告時の分類番号と異なる判断がされることも起こり得ます。

ではどうすすれば良いのでしょうか。輸出先(輸出した貨物の輸入国)でのHS分類のトラブルの回避のためには、次のようなことが考えられます。

その1.輸出する貨物のHS分類を誤らないこと

近年、日本の税関も輸出申告書の輸出統計品目番号の正誤については一部を除き厳しくチェックしてこなかったですし、今後も特別なケースを除いては基本的に申告された内容で許可されるということが実務の現実でしょう。これは、あくまで申告された内容が正しいとの前提で許可するものであり、すべて申告者の自己責任であるということです。この点を認識しておくことも大事です。日本の税関では、輸出品に関しては、輸入品のように文書による教示はないため、当局に対する拘束力はないとの扱いですが、分類の事前教示願いには応じてもらえるような運用となっております。

その2.輸出先国(輸入国)において、輸入申告した貨物のHS分類が違っていると指摘された場合のために、HS分類について納得させることができるような情報及び説明ができるようにしておくこと

これまで述べてきた通り、関税分類(HS分類も同じ)は、分類する物品について、関税率表(HS品目表)の規定を解釈し、いずれの項に当該物品が属するかを決定することです。そのためには、対象となる貨物についての正確かつ適切な情報が必要です。当該貨物のこうした情報は、通常は、輸出者、特に当該貨物の製造者から得られます。つまり、正しい分類のためには、当該貨物の製造者、輸出者からの情報が不可欠です。

その3.事前教示の依頼と情報提供

最も有効と考えられるのは、日本から輸出する貨物の原産地証明に先立ち、輸出先相手国の輸入者に対して、当該輸入国の税関に対しその貨物の関税分類について事前教示を求め、その回答内容を提供してもらうよう依頼しておくことです。当該教示されたHS分類に関する部分に異論がなければ、当該分類により輸出申告し、また当該HS番号の貨物に適用される原産基準に照らし原産品証明をするのが良いでしょう。拘束力はありませんが、必要に応じ、日本の税関に輸出貨物のHS分類、原産地基準に関する教示を求めておくことも有効です。

もし、輸出者のHS分類判断と、輸入国当局の事前教示回答の判断が異なっていた場合は、再度、当該貨物に関する必要な追加説明をし、回答書の分類を再検討してもらうべく情報のやり取りが必要となります。しかし、一度発出された事前教示回答書は事実誤認等があれば別ですが、覆すのは難しい場合が多いでしょう。従って、繰り返しになりますが、最初の事前教示申請の段階において、輸出者側から輸入者に対し、貨物情報、分類意見等、分類判断のための最大限の情報(商品に関する情報と分類のロジック)を提供するように心がけるべきです。また、分類意見の相違は、分類しようとしている貨物の性状に対する理解が違うために起こる場合が多いものです。サンプル等があればまだしも、これもないまま言葉で説明しても、必ずしも的確な貨物の性状や情報が伝わるとは限りません。こうした情報不足により、当該貨物に関する性状の把握や理解が不足することで分類意見の相違が生じるケースがほとんどといっても過言ではありません。すなわち、すでに述べた通り、HS分類は、貨物についての正確かつ十分な情報が必要不可欠であり、こうした情報の提供者としては、輸出者又は製造者が最も適切であることは言うまでもありません。従って、HS分類上の輸入国でのトラブルを避けるためには、先ずは、輸出者がメーカー等から適切な貨物情報を入手し、これを顧客(輸入者)あてに提供して、正しいHS分類の事前教示を得ておくよう心掛けることが肝要です。

ところで、該当する原産地基準が「類の変更」であるので、項(4桁)までの分類は不要、と考えられている方はいませんか?HS分類は、モノに対して行われるのであり、それがHS品目表の4桁のいずれかの項に属するかを決めることが基本です。HS分類の解釈に関する通則1で「物品の所属は、項の規定及びこれに関係する部また又は類の注の規定に従い」と定めています。原産地基準が類の変更であるから、当該類の中のいずれの項に分類されるかということは考えなくてよいという考えは誤った認識であると指摘しておきたいと思います。4桁が決まらなければ2桁の類は決まらないということを理解していなければなりません。輸入貨物のHS分類が違うといわれたとき、所属する4桁の項を主張できなければ、反論もできません。

3.輸入国内における分類意見の相違

関税分類の意見の相違は、多くの場合、一義的には輸入国において輸入者と税関当局との間で起こります。これを避けるために輸出者ができることは、上記1に述べたとおり、輸出貨物の内容を十分輸入者に説明し分類のロジックを手助けすることが一番でしょう。

輸入貨物には関税が課せられます。関税率は輸入貨物の関税率表上のいずれの項に属するかで決まります。上記1の例とは逆で、輸入者が自国での関税分類紛争に対応するには、場合によっては、輸出者に対し当該貨物の関税分類(最初の6桁のコードはHSと同じ)に必要な情報の提供を依頼することも必要となってきます。これは、特に原産地基準を満たすかどうかの判断、確認する上でも同様です。仮に不服申し立て、更に裁判に持ち込んだ場合であっても、物品の説明とHSの解釈の問題であることを心してください。

上記の内容とは事例は異なりますが、日本に輸入する場合、輸入品のHS分類、原産地認定の事前教示制度があります。原産地基準の適用に関してもその前にHS分類が正しいことが前提となります。

4.国際的なHS 分類の紛争と解決

国際間のHS分類(HSの解釈と適用)に関する紛争は、できる限り紛争当事国間の交渉によって解決することとされています(HS条約第10条第1項)。しかしながら、紛争当事国間の交渉で解決できない場合は、HS委員会に付託することができるとされ、更に、同委員会は当該紛争について検討し、その解決のための勧告を行うとされています(同条第2項)。

では、どのようにして、輸出国と輸入国とでHS分類の紛争が具体化する(国際間の問題となる)のでしょうか。多くの場合は、輸出国の企業が輸出した貨物が、輸入国でのHSの解釈の相違で、その結果、適用される関税率が高くなっているというケースです。今後は、更に原産地の判断も絡んでくるでしょう。EPAFTAで言えば、譲許除外品が所属する項に分類されるということもあるかもしれません。ただし、この時点では、あくまで輸入国における当該貨物の関税分類、適用税率の議論は、輸入者と輸入国税関との間の問題です。

しかしながら、国際的に貿易量も多く、関係国の間でHS分類が異なることによる影響が無視できない場合等、分類の不統一は極力避けることが望ましいはずです。何れかの国の当局がそのように判断した場合、事業の内容を必要に応じ関係当局とも相談しつつ検討した上、輸出先国(当該貨物の輸入国)の税関当局に対し分類問題について議論したい旨を、外交ルートを通じて申し入れすることが考えられます。その結果次第で、2国間で議論することとするか、あるいはWCOのHS委員会で議論するかを決めてそれに従って解決する方法をとることとなるでしょう。あるいは、このような2国間の分類紛争問題とはせずに、分類の解釈が国際間で統一されていない事があるとして、HS委員会で議論するように取り計らうという方法が考えられます。

いずれにしても、最初のアクションは、輸入国側の輸入者と税関当局との問題であることに端を発しているものですので、こうしたアクションをまず輸入者が起こすかどうか(輸出者、あるいは場合によっては輸出国の在輸入国公館に相談)にかかっているといえます。また、こうしたアクションを起こすことについて十分その価値があり、また分類ロジックが正しいとの確信があり、かつ、他のHS締約国を説得できる情報があることが必要ですので、輸出者自身がこうした情報、特にHS 分類に関する知識と必要な貨物情報を輸入者及び自国の関税当局に対し提供できることが極めて重要です。

以下に述べる通り、上記二国間の紛争解決手段に訴えた場合でも、またHS分類上の解釈の統一見解を求めるとしてHS委員会にHSの解釈に関する問題として提案した場合でも、一旦結論が出ればそれに従うことになるので、上記の情報は重要です。

結局は、議論となっている貨物の性状の説明とHS の項の規定の解釈と適用の問題であるので、これらをきちっと説明でき、委員会メンバーを説得できるかどうかということになります。

5.国際間の分類問題の解決 ~まとめに代えて~

(1)国際間の紛争案件としては処理しないケース

国際間の分類問題の端緒は基本的には同じですが、それを国際間の問題として取り上げるかどうかの違いによります。

① 端緒:
端緒としては、日々の通関実務(関税分類実務)上の疑問(例えば国内で分類解釈の不統一がみられる場合)や、特定の貨物についてHS分類に関する国際的な不統一がみられ、その影響を無視できないと判断される場合などがあります。

② 対処方針の決定:
国内問題に限っては、国内での統一的運用を図るため、分類に関する会議や通達等を整備しますが、場合によっては、HS条約第7条(c)項により、国際的に統一見解を求めるべく、HS委員会に議題として提案するケースもあります。

③ HS委員会での議論:
国内問題であっても、国際的に統一した見解を定めるべきと判断されれば、HS委員会に対し分類問題案件として提案しそこで議論、結論を得ることとなります。同委員会は年に2回開催されます。
分類の決定は、単純投票による多数決によります。各国代表はそれぞれ1票の議決権を持ちますが、関税同盟メンバー国は、構成国毎ではなく、当該同盟として1票の議決権を行使することとなっています。
HS委員会で決議した内容について、分類決定のみとするか、HS解説書(Explanatory Notes)に反映させるべく同解説書を改正するか、個別の分類事例として分類例規集(Compendium of Classification Opinion)に収録するかも同時に決定、総会(理事会)に報告し、承認を受けて、解説書、分類例規として勧告されることとなります。

(参考)
HS条約第7条「統一システム委員会の任務」
(c)統一システムの統一的な解釈及び適用を確保するための勧告を起案すること。

(2)国際間の分類紛争として処理するケース 

締約国間で解決するケース>
上記(1)のうち、国際間での分類の不統一が発覚し、何れかの締約国からHS条約第10条の規定に基づき、紛争当時国間で議論し、解決する方法をとる場合です。
基本的には、財務省関税局に加え、関係省庁(農林水産物であれば、農林水産省の担当部局)、これに交渉相手国を担当する外務省担当部局と、相手国の関税当局その他関係部局との間での交渉となります。
形式は少し違うかもしれませんが、実際にあった事例としては、筆者が当時担当した1990年代始めの米国のスーパー301条案件として米国が取り上げた日本の林産物(集成材)の関税分類に対する申立て事件があります。これは、日本で一定の厚さのある木材(板)を重ねて接着した集成材(輸入後更に引き割ってこれに化粧板を張るなどして柱用等に加工される)は第44.12項の積層木材である集成材として当時15%を適用していました。他方、ENにおいては、第44.18項の建築用木工品(カーペントリー)には、構造用集成材の製品(グルラム)も含まれるとの記述があり、こちらの方が関税率が低く設定されていました。そのため、米国側は日本の関税分類は誤りで貿易の不公正慣行であるとの申立てでした。本件は、他の林産物問題と一緒に交渉することとなり、結局、米国関税庁の分類担当を含め、通商代表部との交渉となりました。
議論の末、集成材の関税分類に関する取扱い(グルラムと呼ばれる比較的大きな集成材の関税分類基準)を取決めることで合意しました。これを踏まえた第44.12項の積層木材である集成材と第44.18項の建築用木工品であるいわゆるグルラムの分類に関する基準を策定(国内分類例規に収録)し、国内の取扱いの統一が図られました。  
当然の帰結ですが、国際的な分類基準とはなっていませんが、2022年の改正で、先に述べた通り、第44.18項の細分として「グルラム」が明記されることとなったことから、この扱いが注目されるところです。ただし、税率格差は依然あるものの、その後集成材の協定税率は現在6%に引き下げられています。

(参考)
HS条約第10条「紛争の解決」
1 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争は、できる限り当該締約国間の交渉によって解決する。

<統一システム(HS)委員会に付託するケース>
二国間の分類問題について、締約国間で議論し解決するのではなく、双方合意の上HS委員会に解決を付託し、マルチの場で議論するケースです。HS条約は「できる限り当事者間で解決に努力する」としていますが、当事者間で解決した場合は、あくまで紛争当時国間での合意であって、真に国際的な分類の統一が図られるとは限らない場合もあり得ます。これに対しHS委員会に付託され、議論したものは、基本的に国際的に統一した運用が図られることになります。
実際に適用した事例としての公式な記述はみあたりませんが、少なくとも実質的に紛争当時メンバーが合意の上HS委員会で議論した事例としては、筆者等が当時担当した1989年から90年にかけてのECに対するメカデッキ(ビデオテープのカセットを取込み画像・音声の磁気化した信号の記録・読取りする機械部分)の分類問題があります。これはECが本品をビデオデッキの部分品として分類してきたものを、ビデオデッキの完成品としての重要な特性を有しているとして、完成品に分類変更したことによって適用税率が大幅にアップしたことに対して、日本から分類の見直しを申し入れたものです。
この事件の発端は、スペイン及びポルトガルがECに加盟するときの問題にも関係があります。両国の加盟後の関税率はEC域外共通関税率となるため加盟前より低くなります。そのため日本に対してその代償として、日本から輸出している産品の一部について、ECの関税率を引き上げたいとする品目リストにメカデッキも含まれていました。しかし、この交渉はGATT交渉の対象とはならいとしこれには応じず、その代わり日本に輸入するスペイン、ポルトガル両国の関心品目である切り花、球根等の関税を引き下げることで決着しました。その矢先、ECがメカデッキの分類を上記の通り変更したため税率が高くなったことに対するクレームでした。EUが一度留保したため、再度議論することとなり、議論は足掛け2年、3回にわたるHS委員会での議論の末、日本の分類意見が支持され、決着したものです。

(参考)
「1994年の関税と貿易に関する一般協定第24条の解釈関する了解」パラ6において、「関税の引き下げにより利益を受ける加盟国に対して当該同盟を構成する関税地域に対して補償的調整を行う義務を課するのではない」ことを明確化した。」とされています。(『解説WTO協定』p.81(外務省経済局国際機関第一課編(財団法人)日本国際問題研究所(1996年))

HS条約第10条「紛争の解決」
2 交渉によって解決されない紛争は、紛争当事国が統一システム委員会に付託するものとし、同委員会は、当該紛争について検討し、その解決のための勧告を行う。

【文責:宮崎千秋】